五十五精米純米吟醸 「月と猫」
2024年 10月 08日
この国の政府は不思議な事をやらかす。30年来の不景気から抜け出すためとして、市場に出る製品の販売価格を値上げするべく誘導する。お上の公認が出たとばかり、あちこちから値上げの狼煙が上がる。これに加えて円安容認というか誘導が。輸出産業で飯を食っていた昔ならいざ知らず、主要な製造業は海外に工場を持つ。多くの製造業が原料を輸入し、国内で加工、製品として販売が主流。
円安で輸入物価が上がる。当然販売価格に反映される。こうして物価が上がって来た。誰の為の国政だろう、疑問が湧かないのかな。国内経済ニュウスを見聞きすると、消費者は贅沢し、好況で金が廻っているかに見える。よくよく観察すると東京中心の経済圏とそこでお給料を貰う人々の話だった。首都圏地域とそれ以外の所では、経済の活性化に格差が目立って来た。首都圏の連中の好景気にしても首都圏人口三千万人をそれ以外の九千万人が支えているからであり、後者の九千万が困窮化の方向へ行けば「繁栄」は幻と化す。
元旦の大地震で被災し、8ヵ月を経ても復興の目途すら立たないうちに先月の大雨災害。石川県能登地方の姿は明日の日本である、と想像できないのか。石川県の首長は筋肉脳だと言うと名誉棄損か、いや頑強な脳だと褒めているのだが。
彼を選んだのは県民であり民主主義の成果。素晴らしい。
値上げラッシュに在ってお買い得価格で頑張る或る酒を紹介しようと書き始めたらつい愚痴が出てしまった。10月と言うのに曇天と蒸し暑さの昨今、みーんな天気が悪いんやな。うん。
好適米55%、酵母NEW5、酒度+3、酸度1.3、1.8Ⅼのみ2700円(抜き)
このスペックで一升瓶が三千円でお釣りがくるってのは今時、魅力的だ。こういう書き方は宜しくない。先ず酒質で観てどうなのかである。しかしこの酒は「志太泉」の純吟なのだ。もうその段階で酒質は当然の事折り紙付きである。酒銘は「猫と月」とある。もう15年も前だろうか。東京の超有名地酒屋が『カップ酒』ブームを仕掛けた。朝日新聞がそのブームを特集したと記憶するが「ブーム」だった。その数年後、蔵の倉庫の裏には酒が充填される事の無い空の未使用のカップが積み上がったとか積み上がらなかったとか。祭りの後の寂しさだな。
志太泉もブームに乗った。中身は純吟だ。カップ酒と言えば『大関one cup』を誰もが連想する。大関が「ワン」ならうちは「ニャン」と真面目に「ニャンカップ」と称してお洒落ネコのプリントカップを出した。
蔵が詳細を語らないので蔵のHPや小売店さんの情報とかを総合して判った事が、醸造年によって使用米が変わるようだが55%純吟を使っている。充填画面が何処かに在ったが製品の一升瓶を抜栓して人手でカップに注ぎ一本づつ手動で蓋をしていた。
でもって「月と猫」は蔵元の説明では「ニャンカップ」用の酒を一升瓶でお手頃価格で提供したいと造ったとある。
蔵の案内では原料米の表示が無い。ニャンカップが中身とあるが肝心のニャンはBYによって中身の違う事があるみたいで、これと断言できない。敢えて表示しないのは訳が有るのだろう。現物を利いた限りでは味の透明さ、柳腰のボディから五百万石では無いか。山田系や八反系でこの風合いだとするとそれはまた個性的と評価できる。この酒の売りは55%純吟の「内実」にして一升の販売価格が税込2970円と三千円を切った所にある。店に来た案内には「ハウス日本酒」は如何ですかとあった。ハウスワイン・テーブルワインをもじったか。
立香含み香共に極めて抑制的で穏やか。大人しい酢イソ系で緩く立ち上がる。含んでみると静岡酵母らしい上品な低酸傾向。飲み下す時の切れは潔い。主張が少ない。初めの一杯は何処か拍子抜け感あり。水かこれはと思いつつ、盃は重なる。
翌朝に抜栓した瓶を見たら四合弱空けていた。製品コンセプトからは「定番」では無いのだろう。我が家の食卓に上がって三日過ぎるが利き酒中の3種の中では最も手が伸びる。目立たない定番として地味に存在するのも有では。現在、初回入荷分は完売した。一巡して帰り注文の様子はまだ判らない。ベテランがどれを飲もうかと迷う時、色んな意味でこれを薦めたい。
そんなバナナ。

