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にほんしゅのせかい 言いたい放題


by sasatatsu

酒に教えられて本質を見る

菊鷹と言う復刻ブランドが有った。尾張の国稲沢の宿に位置する藤市酒造の昔のブランドだ。山本という杜氏を新しく迎えるにあたり昔のブランドを復活させた。菊鷹である。

世間では『あの山本スペシャルの山本杜氏の手になるデンデン』で評判を取った。

米由来の甘味をベースに鮮烈な酸味と豪快に口中を弾く硬質な口当たり。世間一般の口当たり良く、優雅?に香り、これでもかと旨味らしき味の流行の吟醸とは次元が違った。また、酢イソ主体酵母(G7グループ)によるクラシック吟醸とは同次元にあるが作法が違った。

一連の新酒滓がらみ生が評判をとった。菊鷹売れ筋の新酒本生もさることながら、当方の興味は火入れ2年、3年熟にもっぱらであった。世間一般のソフトタッチの日本酒には無い野武士のような図太さ野性味に惹かれた。何処かで利いた事あるぞ、と・・・・。男酒だな。灘酒か、剣菱じゃないか。と意識下に思って居た。場所が稲沢、当方が帰省するJR東海名鉄電車の途中下車という気軽?に行ける蔵の位置。蔵を訪問して当方の勘がビンゴと判った。多くの酒を剣菱に未納税移出、言う所の「桶売り」の蔵だった。木曽川の伏流水は旧伊勢湾岸の貝殻層を通過、冬は厳しい伊吹降しが吹き付ける。しかし、風を防ぐと燦燦と日が照り温室内は熱帯。立地条件が灘五郷に似ている。

2019年と記憶する。いきなり菊鷹シリーズが在庫限りでなくなる。と聞こえてきた。蔵元からの正式な連絡ではない。それを待つまでもなく地酒トレンダー界に話題が広がり、更に当方の理解を超えた話題が広がる。曰く、これからは光栄菊だ。何処かのTV屋と山本杜氏が手を組んで廃業蔵の設備と休場蔵の免許を買い取って『ジャーン!復活』。汗と涙の熱血復活蔵物語。いっちょ上がりである。ググってみる。地酒屋の諸君、ビジネスマンとしての矜持・・・死語だ。儲けた奴が勝ちなんだから。某小林が当方に言った「うれねぇ小売りが生意気に」本気で面罵された。快感であった。当方SMの気がある。のではなく。モロに人間を見せてもらった。下手なゲージツを凌駕する。

そんな事より「剣菱か」と感動したあの酒はどうなる、いやどうなった。誰も振り返らない。と言うか話題に載らない。菊鷹を市場に出した酒小売として、「次は光栄菊」でエエノンかい。更に言えばここへ至ったDue Processに目を瞑るんかい。もっと本質的な事を言えば復活版菊鷹の本質は『ヤマモト』に有ったのかである。当方の頭には立派に色がついて威風堂々の2年物3年物が印象に濃かった。実家の母親の健康問題とか種々あって秋田から岐阜への移動が増えた。途中下車で藤市酒造へ気兼ねなく(蔵元さんが気の置けない好人物)顔を出した。

「菊鷹以外で残りのもんはあらへんの」とぶしつけな質問に「有りますよ。でもねー19BY本醸原酒です。」この時点で13年物である。目が慣れてくると蔵の中に味醂の存在が。「味醂もあるんですね」に「ハイ、昔造っとったんです。今は20年物があるのかな」。この時当方の脳裏に剣菱のHPの或る映像が。プレミアが増えるにつれて製品の色が濃くなる例のやつ。さらっと貯蔵物を何気なしに話す蔵元の感覚。本醸原酒で13年物。20年物の味醂。ど素人(と知らなかった)に菊鷹3年物を売り渡して「古い腐った酒を売られた」とクレームを頂戴した、ドッヒャー体験を思い出した。藤市酒造の本質は立地が醸す蔵に付いた酒質に在るんでないか、とほとんど確信していた。

今期は酒を造る予定はなかったらしい。そこに藤市ファンが押しかけて、蔵人はファンがボランティアで務める。杜氏は蔵元がやれ。と小仕込みのタンク2本を立てた。地元産夢吟香65%純米で7号と金沢系の2酵母で仕込んだ。酒母の留め仕込みの際偶然蔵を訪問した。蒸し米を放冷していたが個々がしゃもじで米の塊をほぐしていた。長閑な放冷作業を記憶している。「素人集団の仕事ですから上手く酒になるかどうか、判りませんねぇ」と穏やかな表情で話される蔵元だった。それから2か月後上槽された酒を利いた。利く酒ではない。盃をグビッと煽って喰らう酒である。新酒の固さが初々しくも有り瑞々しい。伸びやかに育った素直な純米であった。7号と金沢系を比べると7号の方に勢いがあった。金沢は幾分控え目でお淑やかか。そして5月、蔵を訪問した。上槽後2か月経ようとする生酒を利く。「ちょっと金沢が面白く変わってきてますね」蔵元が言う。

目の前の酒の器を見る。金沢系のは滓がらみだ。どれどれと利く。なんとマルっきり菊鷹本生滓がらみの再来である。ここで当方は納得した。この酒はモロミを立ててからは一切手を加えず成るがままに任せた。「剣菱さんの指導どうりにやった」のだそうで。蔵の環境全てがこのモロミを育てた。「ヤマモトのおスぺ」は影響せずにこうなった。名杜氏が名酒を造ると言えば判り易い。しかしそう簡単に都合良く行くものか。百年近く所によっては5百年以上醸造所として残るのは人力を超えた蔵の立地と環境が大きく影響する。これをして先人は「松尾様がそこにいる」と評したのである。

藤市さんには鍛えられた。ザッハリッヒ(緑の狸BBAも使ったドイッチェ)に観察する。カッケク言えば眼光紙背に徹す。囃子言葉に惑わされる事無く、本質に接することが出来た貴重な経験を頂いた。尾州寿に感謝である
by sasatatsu | 2023-05-30 15:06 | 酒の味 | Comments(0)