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にほんしゅのせかい 言いたい放題


by sasatatsu

夏酒を考える

「夏酒」と言う言葉が出てきたのは当方の記憶では15年程昔である。言葉は実態を象徴するのだから、「夏酒」なる物が商品として市場に出たのが15年前と考えて間違いではない。実は夏酒なる企て(プロダクトアウト)については某有名地酒屋のご主人と或る酒の事で関係をもたなくてはならなくなった(モーホーちゃうで)縁で1年半前から知っていた。彼曰く日本酒に関するイベントは秋の冷卸・初冬の初しぼり・厳冬期の寒造り・初春の搾り立て等あるが残念な事に旬の時間が短い(あったりめぇさ。それ故に旬足り得る)。仮におにゃの子の旬があれば昔なら18歳から二十歳だ、と言う使い方ね(セクハラオヤジ!)。

これに関しては世俗的な一般論だ。と或る、有名な女子マラソンランナーの現役中は色香からは程遠かったが解説者として成長したら解説を利くだけで色気を感じると言う例は珍しくない。気が付かないだけだ。旬で脱線した。

短い旬で儲ける時期が短かすぎる。そこで従来、日本酒関係者にとって当たり前の「常識」である「夏枯れ対策」を考えた。大都市(地酒の主たる市場)の夏は5月から8月一杯4カ月もある。One wordで年の1/3を張れる。先ず、名前ありきで始まった。胡散臭く当方は10年近く一般市場の「夏酒」は名前倒しだと話していた。江戸時代に夏のアル飲料が存在した。一つは関西落語にも出てくる「やなぎかげ」。つい60年程前まで一般的日本人にとって夏の冷たい温度は15度前後即ち井戸水の温度である。朝方網に入れた大きなスイカや瓜(今は見ないな)を井戸につけて夏のおやつとした記憶がある。一般的な冷水とは井戸水の時代である。当然アル飲料も井戸水。これで米焼酎を割り味が足りないから本物の味醂を垂らす。もう一つは呑み方を変える。酒屋から通い徳利で買ってきた酒に多めの加水。それをいつも以上の熱燗で啜るのだ。熱くても20㏄程度の液体である唇を通過して舌の上では体温、だが熱い日中に熱いお茶を啜るとなぜか涼しく感じると同じ原理。縁側で上弦の月でも肴にくいっと。横には・・・・岡本おさみの「旅の宿」。我が古き良き友の時代である。二十歳の時半世紀過ぎたらこういう時代になるとは。糞爺の繰り言。しかし当方より少し年上の諸君「全共闘世代」と呼ぶのかshame on you 諸君が常に使った言葉を贈ろう。「ソーカツはどうした。」応えてソースカツどんは長野だ。位なら諦めもつく。

酒の話が横に流れやすい。ケケ中小鼠ABと続く不思議さおまけに岸田の高支持率。身体に悪い。

素麺・冷麦・冷やし中華(酢醤油)・冷ややっここれら夏の食品に共通項がある。

胃にもたれない、基本的に淡白。アフリカ人もくたばると聞く金鳥の夏もとい日本の夏は基本的に体力を奪う。味覚で言えばキス分の濃い物を避ける。ソフトクリームは冷たいから行けるが、溶けたソフトはくどすぎる。

日本酒も日本の食品の一種。従って同じ原理が通用する。

夏酒のでっち上げが始まって15年だ。流石に一部の蔵は真面目に「夏」を研究して実態としての夏酒を出してきた。、先ず、黒龍である「夏しぼり」と銘して製品化。内容はここの定番純吟「五百万石55%金沢系酵母」の原酒である。定番は15,5度の所18度原酒で出してきた。純米原酒ゆえにそのままでは香味が分かりづらい。水かアルコールで延ばす必要が有る。純米故アル添は無し。水で延ばすしかない。普通に夏酒と在る故に氷を入れる事が予測される。

その際クラッシュアイスを使うと薄まり過ぎる。ここはロックアイス(ブロックアイス?)をグラスにカラカラと。グラスを口へ持ってくるとロックアイスの周りの溶けた(水で延ばされた)部分が唇を通過ひんやりと舌の上へ。口中で酒の品温は体温になる。とりあえずビールの場合は冷たい液体の塊がグビッと喉を通過その温度のまま食道から胃へ。ロックアイスの滴の場合はひんやり感は有るが現物としては水で延ばされた体温の純吟よってしっかりと香味が判る。

黒龍は此処まで考えて「夏酒」を企画している筈。ブロックアイスによる清涼感と適度に氷の周りだけ原酒が延ばされる。結果として旨い夏酒となる。

真夏の身体にエキスの濃さが不適当であることは夏の食べ物からも納得いく。

では日本酒はどう対応するのか。ヒントは戦前の日本酒の流通過程にある。

貴重な米を使うからにはアル分は稼げるだけ稼ぎたい。その原酒を樽で小売店へ入れ、小売りは自店の桶に原酒を入れ玉割り作業をする。ついこの1月にお亡くなりになった秋田県大の教授にして我が師匠日向野三雄先生のご実家は宇都宮にある。玉割りの話をしたら我が師の幼い記憶に実家の店で玉割り作業を見た経験がおありとの事。本来日本酒は原酒から加水によってアル分を下げるのが原則なのだ。

灘酒が江戸で珍重されたのは酒質の秀逸さもさることながら玉が利いたのだ。「玉が利く」とはにゃんこの話ではない。原酒に加水してアル分を下げても酒質の存在感が残る。ぶっちゃけ薄いと感じない。

最近の流行に低アル原酒てのがある。高い米を使ってわざわざ低アルの原酒にする意味が訳若芽。バランス良くアル分を稼げるだけ稼ぐ。それに玉を利かせれば問題ない。がしかし、「玉の利く酒質」と言う物は杜氏の腕が要る。だけでなく消費者も「玉の利いた酒」がそれなりに旨い事に気が付いていない。

高清水に「夏の純米」という季節商品がある。朝晩薄ら寒いのにすでに市場にある。流水紋に柳の枝があしらってある。小洒落たつもりのデザインだが。涼しげな演出は他所も同じ。どうせならでっかく勢いよく「高清水が挑戦・夏の日本酒」位の勢いが欲しい。というのは酒が非常に良く出来ているからだ。偶然の事、原酒を利いた。アル分18度。立香は結構強いエステル臭ぎりぎり。口に含むと強烈な存在感。当然玉割りが前提である。製品としては12.5度まで加水してある。

全く玉割りを感じさせない堂々の存在感。弊店主任鑑定官の(ポチ嬢)のインプレは軽い味と甘めのコク、ガラス玉がころころ転がる。水に近い様なスムーズさでまろやかで「消化に良さそう(さすがに栄養士らしい表現)」。甘さがあり和紙で丁寧に包んだような感じ。

18度を12.5度まで加水して延ばしてもあくまでも印象は軽快優しい、究極は甘めの「コク」がある。と表現している。低アル原酒を売りにする風潮が強いが高清水夏の純米は日本酒の本道を実践して見せた。それ故小洒落たラベルが癪に障る。

問題はアル分では無くエキスの濃さにあると見えてきた。そこで「美田山廃純米濁り」である。製品はアル分14度。山田錦70%山廃純米が規格。初めてこの酒と対面した時は「あーーあ、また低アルか」と斜めに構えて利いた。含んでみて驚いた、堂々の存在感。仕入れて我が家で新酒生のピチピチガスのある新酒本生を炭酸で割った。14度をもっと低くする。炭酸のピチピチ感と同時に「酒を飲んでいる実感がする。」こうなるとでは燗でとなる。14度原酒はカニ泡の様な半球状の泡で不気味。しかし口に含むと山廃純米濁りだけあって「酒を喰らう醍醐味」である。高級割烹でこいつにぴったしの和食を・・・・ボンビーゆえ。栄養士のポチ嬢に知恵をもらおう。でこいつを夏でも上手くいただく方法だ。本質はエキス分にアル故、玉を利かせればよい。この酒は十分効く。11でも薄いと言う気にならない。翌朝の身体が楽である。

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by sasatatsu | 2022-06-04 17:19 | 酒の味 | Comments(0)