小川酵母(協会10号)を利く
2018年 07月 21日
日本酒の酒質を大きく分けると西の酒と東の酒とに大別できた(過去形)。気候風土の差が大きいだろうが花崗岩質の多い西とそうでない東(分岐点ははこねの山)の土壌にもあるかもしれない。
西と東の特徴を判り易く例えるなら、西はマリリン・モンロウの様なメリハリの利いたフルボディ。対して東は竹久夢二の美人画のような柳腰で流水紋の様なたおやかな姿とでも言えようか。
とかく目立つ物が持て囃される現代において柳腰の東のタイプは商品性に見劣りする(判り難い)。結果として幻状態になる。
東北地方特有の協会酵母として、伝統的吟醸酵母がある。協会10号酵母である。
国税仙台局の鑑定官であった小川知可良氏が仙台局管内(東北地方)で採取した多くの酵母の中から現10号を分離培養した。そのため『小川酵母』と呼ばれる。
小川氏は退官後この酵母をもって茨城の明利酒造に入り、そこで保管培養したため「明利酵母」とも呼ばれる。特徴は酸が低く澄んだ透明な吟香である。ただし、この表現は協会に10号として登録された時代のものであり、現代型吟醸と比べると吟香は非常に大人しい。(S35に実用化S52に協会登録)
東北特有の酒質を10号酵母で非常に判り易く造った酒が2点有る。一つは10号オリジンの小川酵母を使う茨城の「霧筑波」もう一つは協会10号系を使う横手市平鹿の天の戸である。推測だが仕込み水と酵母の相性が特別に良いのだろう。
酒質が非常に穏かゆえこの2点の特徴が判り難い。そのため比較参考用に滋賀の松の司普通酒純米「産土」を入れて3点セットとする。
産土(№1)
原料米 地元産契約栽培(数種類混合) アル分15~16 精米歩合 65%
酵母 金沢系蔵内 日本酒度 不明 酸度/アミノ酸度 不明
杜氏 石田(能登流)
天の戸 精選純米普通酒(生原酒)(№2)
原料米 めんこいな アル分17~18 精米歩合 65% 日本酒度+3 酵母10号系 酸度/アミノ酸度 1.6/0.9 杜氏 森谷(山内流)
霧筑波 特別純米本生 (№3)
原料米 五百万石(富山南砺農協産) 精米歩合55% アル分15~16 日本酒度+3
酵母 小川(K-10 オリジン)酸度/アミノ酸度 1.4/不明
杜氏佐々木(南部流)
これ等の酒はいずれも単品で利けば、華やかさは無いが食中酒として、食材の特徴を殺す事無く、食の旨味と酒の旨味がコラボする事で相乗効果を生む。
産土・天の戸共に精米65%である。霧筑波は特別純米表示ではあるが実質的には純米吟醸と評価できる。特純表示なのは一般流通の火入熟成を考慮しての事であろう。天の戸、霧筑波を並行して飲むときこの精米歩合の差は気にならない。
おのおの65、55として完成されている証拠である。例えるなら黒龍の「九頭龍逸品」と言う普通酒と特撰吟醸という実質大吟を並行してのんでもそれぞれ旨いのと同じである。
ここに産土を持ってくると酒質の厚みの差が判る。端的に言うと「のみで」が有る。この厚みは酸の出方とその性質から来る。背景には関西の「薄味文化」を見る。呑み比べの一例である。
個人的には他県の地方自治体系酵母の記事も読んでみたいです。
他県の日本酒事情には疎いので、他所では秋田で言うところのUT-1的なポジションの
新型人気酵母があるのかな?と思いまして。
昭和60年の沼津工業技術センターの河村伝兵衛氏によるHD-1を始めの一連の静岡酵母群。高知県工業技術センターによる高知酵母群等がその個性で当方の記憶に強く残ります。福島県のうつくしま煌酵母の開発ストーリィは現在の金賞酒問題の象徴です。
百花繚乱に見える酵母開発ですが、志太泉の望月社長が述べるように酵母は建物で言えば内装で本質は構造物の基礎たる麴にある。に痛く賛同します。