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にほんしゅのせかい 言いたい放題


by sasatatsu

難波酒造 和心


表題の「和心」と書いて「わしん」と読む。いきなり絡むのもなんだが「唐心」と書く時は「からごころ」と読んだような気がする。
この蔵が初めて試みる会員制(構成員は小売店のみ)のお酒である。市くらいの行政単位を基準にしてその範囲では1軒のみの取り扱いと言う方針らしい。そもそもおいらがこの蔵に興味を持ったきっかけが「和心」取り扱い店募集中と言う難波酒造HPであった。
HPから入って専務のブログを読ませてもらい、いわゆる「酒屋」らしくない観点のあちこちに共感した。おいらの様なデモシカ酒屋と同列に語られるのは先方様にとり大いに迷惑だろうが、蔵の専務(御母堂が社長をなさる)は薬学部出身と判り、酒も百薬の長とは言え異業種からの「参入」で納得した。
11月も10日を過ぎた頃、ようやく発売と成った。ようやくと言うのには訳が在る。
難波酒造のお酒の取り扱いをお願いする前に蔵の特銘酒の主たるものを利かせて頂いた。その中に「和心」があった。7月の上旬であったと記憶する。
地元岡山の真正雄町(と言う表現が有るかは不詳)の60%、特別純米がその中に在った。「和心」である。利き酒のインプレには、和心は秀逸の酒である。60%精米が良いセンスである。と自分で書いている。一般に「雄町」を使うと米の旨みが太めの酸にのって迫って来る「押し出しの強さ」を感じるのだが、この時の和心は違った。透明感すら感じる淡麗でありながら日本刀(真剣!)を思わせる凄味があった。障りなくのどを通るのだが、不思議な存在感があった。発売しても十分な仕上がりと思ったが、蔵ではまだ若いという判断だった。
当初はこの「和心」が目当てだったが他の純米酒、純米吟醸などにおいらがはまり込んだ。今までにない個性であった。造りは「備中杜氏」の流儀で淡麗旨口と言うその通りなら極めて贅沢である。
この風合いが如何に特筆すべき物か。
この「備中杜氏」はその歴史は丹波但馬、能登等に次いで古いようだ。大正期には技能集団として二千名を数え、朝鮮や満州まで出かけたと記録に在る。岡山と言う場所を思い浮かべて欲しい。東隣はかの「灘」である、西隣はこれまた酒どころ広島である。どれほど広島の格が高いかは、(独法)酒類総研が東京滝野川からここへ移転された事で想像できる。この二大杜氏集団に挟まれて尚、最盛期に二千名の酒造技師集団を有した事実から推測出来よう。場所柄、産業の工業化も早かったので出稼ぎ需要が無くなり現在は注目されにくい。この辺りの事情は角栄によって農業県から脱皮した新潟の越後杜氏に似ている。
備中流の風合いについて象徴的な言葉が有った、『明治大正期に粗白米でしかも淡麗かつ飲み飽きしない造りで有名であった』現代にいたっても種々の改良で『酸度、アミノ酸度が少なくエキス分が多く甘口でさわりなく飲める酒』が醸造されている。(宮下酒造㈱企画研究部 備中杜氏についてその1より抜粋)この文だけでなく他にも的確に説明される解説も見かけた。岡山の酒造りの底力を見せられる思いがする。
で、肝心の酒はどうなったで、ある。味乗りを待ちかつラベルのデザイン変更などで予定より遅れる事1カ月半、11月11日発売と成った。弊店には14日に到着。早速その夜に利き酒をした。地元産!雄町60%で香りが欲しくて1401酵母使用、味も載せようと901酵母のブレンドと蔵のブログにある。7月に利いた時には低かった吟香がふっと立ちあがる。特別純米では無く純吟クラスのボリュムである。真剣の如く凄味ある切れ方は味が乗って落ち着きある風情である。山田錦の親らしく悠然と構える。おやおやずいぶんと変わる事。特純のつもりが腕が良すぎて純吟か。7月の頃の「スゴエモン」も良かったがこの方が一般受けするかも。半分気合を削がれつつ次の日である。酒が動いた。派手とすら感じた吟香は沈み味は淡い物の輪郭がはっきりある。媚びないぞと聞こえてくる。納得して次の日の事。澄み切った酢イソ系では無く牡丹の花の様な厚みのあるしかしくどくは無い珍しいタイプの吟香と雄町らしい骨太の酸を本質に持ちつつ、するりと呑ませる淡麗と言うより口当たりが柔らかいと評した方が正確な味である。軽く燗を付けるとふっと立ちあがるつきたての餅の様な香りが雄町米らしい。普通は冷でも雄町が原料の時にこの香りを感応するのだが「和心」は燗付けで出て来た。最近の流行りである酸味を押し出しつつ味を載せて飲み口は軽快と言う判り易い酒では無い。個性を主張するのではなく、呑み手がそれを探しに行くタイプである。気にしなければ目の前に出されてぐいっと飲み干して「ああ美味しい」で終わるだろう。それ程に障りなく「当たり前」である。しかし、良く観察すると香りは酢イソ系の筈だがそれと判別できない複雑系。味は軽快であるが、ゆっくり含んで対話すると隠された酸、控え目であるが確かな旨みを感じ雄町米の懐の深さを知る事になる。
専務のブログでは県の新酒鑑評会でこの蔵の純米酒(朝日65%)が知事賞を得たのだが同時に出品した「和心」も同じ程度に高評価だったとある。まあ、この場合は一般米65%で雄町60%と並ぶ方を褒めるべきだろう。流石に山田錦の親である、秋も深まってその本性を見せて来た。山田の血を引く原料の酒は寝かせてこそ本領発揮と言うおいらの経験則は正確には「雄町の血」と読み替えるべきなのだろう。「ボキャ貧」の為に感応した味や香りを的確に表現できない。この酒の誕生した背景を描く事で想像して頂ければと思う。拙文を目にして頂きながら実物を利いてもらえば「納得」いただけよう。
1.8Lで2700円(込)720mlで1350円(込)は感動物である。ちなみに知事賞の純米は2330円(抜き)である。


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Commented by 岡山の民 at 2012-11-25 18:20 x
前略 佐々辰様

突然にお邪魔致しますこと、ご容赦賜りたく存じます。
難波酒造の「和心」。
「水よし米よし酒どころ」である岡山の、正統な備中流の本流とも言える銘酒ですね。
しかも本場岡山の本物の雄町による醸造。
工場で量産したり手抜きをしたり奇を衒ったり、そんな蔵が全国に散見される中、
あるいは稲の適性を無視して所構わず雄町や山田錦が生産される中、
これぞ「本物」と言えましょう。

他のご記事につきましても、興味深く拝読致しました。
佐々辰様に擱かれましては、くれぐれもご自愛くださいませ。
佐々辰様の益々のご繁盛と、貴方様のご健康及びご長寿をお祈り申し上げます。

追伸 このご記事を他所に紹介申し上げること、差し支えございませんか。
Commented by sasatatsu at 2012-11-26 11:30
こんにちわ。「和心・雄町特別純米」は仰せのとおり、備中流の本流ではないかと利かせてもらいました。奇をてらう事無くオーソドクスなその姿は、今やすがすがしい物さえ感じる程「希少」な存在です。
拙い表現でも宜しければ、ご自由にお使い頂いてかまいません。
お気遣いいただき恐縮です。
Commented by 呑んべぇ at 2013-05-31 21:10 x
蔵のブログを読むと『純米活性生にごり』が仕込中とか
発売されるのが楽しみで楽しみで絶対買うと決めてます
by sasatatsu | 2012-11-21 11:36 | お勧め | Comments(3)