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にほんしゅのせかい 言いたい放題


by sasatatsu

硬派とカプロン酸エチル

カプロン酸エチル(カプと略す)について考えようと検索エンジンにかけた。
ほとんど化学式の羅列というか真正面からの記述なわけだ。この成分は日本酒とりわけ、吟醸酒にとって決定的な香りの基である。これと酢酸イソアミル(酢イソと略す)が吟醸香の2大成分と言われる。イソアミルアルコールと言う成分も日本酒の香り成分としては大きいのだがこれはいわゆる伝統的な日本酒の匂いの基である。吟醸を語るときにはこの成分は邪魔者?扱いを受ける。そしてカプロン酸エチルについてはこの成分を高生成する酵母の開発法について月桂冠がセルレニン耐性株について特許を持つほど現代吟醸においては重要な要素である。
さて、検索エンジンで興味あるブログ記事を見つけた。
『硬派純米酒と華やかカプロン酸エチル酒と。』と言う記事である。
最後まで読めば著者は「酒屋萬流主義者」で価値観の多様性を楽しむ立場である事が理解できる。
一般的にカプと酢イソを対比させる時、カプに否定的な立場が多い。市場では圧倒的多数がカプカプなのだが、だからこそブログの様な媒体でしかアンチカプを論ずる場が無いという事情もある。おいらと言えば普段の言動は「頑固爺並みのアンチカプ」な訳だが正確にいえば「現状のカプ系の日本酒の姿」に対して「そうじゃないだろう」と言っている。カプ系の酒でも良い物は良い。ただ、カプ系で「健康な酒」を造るのはその酵母の特性上難しいと経験的に思う。
と、まあ此処でおいらの立ち位置をはっきりさせて、当該ブログについてだ。
硬派純米酒として「全量純米酒を目指す会」の蔵をあげてそこのリーダー的存在である「神亀」を紹介している。これに対して華やかカプ酒の例として「醸し人九平次」をあげている。
神亀は記憶によれば使用酵母は協会7号だったと思う。たいして九平次は金沢酵母(協会14号)を使うと蔵から聞いた覚えがある。両者ともに酢イソ系のG-7グループの伝統的吟醸酵母である。遺伝子的にも秋田の新政から出た酵母の系統ではないか。確かに23BYの九平次の一部だが飲んでみると金沢酵母にしてはカプが目立つ、しかしこれをカプ系の酒に分類するのは観点が違うだろう。
神亀系を伝統的純米酒と呼ぶのはある意味、正確である。ある意味とは、である。
実は米、米麹、水だけで酒を沸かす術が日本の酒造史歴において一時、途絶えたのである。しかも敗戦後アル添糖添が標準になり米の蒸し方、おそらく基本的な麹の型さえも変化した。1984年に神亀が「全量純米酒造り」に全国初に移行するまで純米酒が主体と言う思想が現実にならなかった。神亀系の純米酒を飲めば判るが「重く、酸が強く(高いとは言わない)新酒ではとても硬い」出来るだけ完全発酵を目指した造りなのだろう。アルコール飲料なのだからそれが本来である。貯蔵熟成が前提で、飲む時は加水してアル分を下げ(濃い味を判り易く伸ばす意味も大きい)、できれば燗で飲む。故上原浩氏の「酒は純米、燗ならなおよし」と言う言葉がこの蔵達の標語なのも頷ける。
一方、九平次は純米とかアル添とかの議論の後に出た蔵である。むしろ九平次が反面教師としたのは「淡麗辛口」と言いながらもペラペラの薄い酒を良しとする時代であろう。しっかりと米の味を出しつつ、ブームであった吟醸酒のようにFFJでありたい。吟醸酒質(勝手な造語だが)を狙ったのだ。
ごつい伝統的純米酒系と比べれば確かに「華やかである」。またとっつきやすくも有る。今流行りの先駆者の一員ではあった。そういう意味で神亀系と対比するのはある意味根拠ある事だ。ただ、この分類にカプロン酸エチルを絡めるのは、G-7系伝統吟醸酵母にとってもカプ系酵母にとっても議論をミスリードすると思う。たとえば23BYの「∧ユ」なんぞはこの分類では説明がつかなくなる。ぱっと感じたままを書いた。この課題は今の日本酒を考える大きな物だと思う。いずれ深めたい。
Commented by KGW@TSO at 2012-02-27 16:28
先日はお世話になり、ありがとうございました。
個人的には原酒原理主義者なので、
加水の酒や加水して飲むことに抵抗があります。
しかし先日の某は加水火入で驚くほど美味しかったので
固定概念は良くないと再認識した次第です。


閑話休題

二つほど、疑問が浮かびます。答えのない問いかもしれませんが、師匠のお考えをお聞かせ願えれば。

・“正しい造りの酒”が“正しい酒”なのでしょうか。
正しい造りや正しい酒があるや無しやは置いといて。
プロセスを目的化することは正しくない、と個人的には考えます。

・完全発酵とは何をもって完全でしょうか。
追水して酵母が資化できる糖を徹底的にアルコール化することでしょうか。
突破精麹で若酛、低温発酵という造り、ピルビン酸が消失しても残糖があれば不完全でしょうか。
意図せざる酵母の非活性や発行過程を止めることで後の酒質を損ねるものは不完全で、それ以外は「完全」なのではないか、と考えます。

気が向いたところで結構ですので、ご回答いただければ幸いです。

長文、失礼しました。
Commented by sasatatsu at 2012-02-28 12:20
いきなり剛速球をかまされましたね。正しいの定義や完全の定義などから展開しないと正確な話にならないですね。お時間をくださいませ。ところで、「師匠」はかんべんしてください。地元では「もぐり」とか「アウトロウ」とか呼ばれてるので、せいぜい「熊親父」くらいで宜しく。
by sasatatsu | 2012-02-26 18:15 | 酒の味 | Comments(2)