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にほんしゅのせかい 言いたい放題


by sasatatsu

協会77号酵母

酵母の番号の前に協会と付くのは(財)日本醸造協会の事を言う。明治に大蔵省の肝いりで造られた財団法人だ。と言っても今流行りの役人の天下り受け皿では無い。明治の頃、国税における酒税の役割はとても大きかった。安全に酒を沸かしてしっかりアルコールを出し、製品として売れなければ税金を取ろうにも取れない。
脱線するが消費税はこの点安定的に採れる。なぜか、市場における財(サービスも含む!)の移動が有ればその度に懸ける物だからだ。資本主義の根幹は「商品の交換」すなわち財の移動だからね。極端な言い方をすると空気を呼吸する度に税金を取られるようなもんだ。或る意味便利で平等な税制と言える。
元へ戻る。大蔵省は酒造に科学の目を入れるべく醸造試験場を造った。今の北区滝野川にあった。チョイ前までは試験場の事を「滝野川」と呼んだもんだ。で、様々な技術がここで開発された。山廃酛や速醸酛なんてのは技術開発の金字塔クラスの技術だ。ただ、技術が出来てもそれを全国の醸造場へ広めなければ意味が無い。その為の機関として件の財団法人が設立された訳だ。役所があって系列の財団・社団法人が作られるのは資本主義経済の未発達な段階においては止むを得ない訳だ。けだし産業の多様性が無いから必要な仕事機関を公営で造ってやる必要があった。さしずめベンチャー企業だ。でもって、その形式だけ今に残し天下り受け皿として悪乗りしているのが公務員と言う組織な訳。前例踏襲の好きな国民性も影響してるよな。「何故それが必要なの」と訊かれて「みんながやってきた事だから」が正解になるんだもの。本題に行かなくては。
77号酵母と言うのが協会から頒布されている。リンゴ酸を多く作り、カプロン酸も良く出る酵母だと説明される。検索かけると結構あちこちの蔵が使っているようだ。今年の造りで秋田でも飛良泉が使った。美山錦60%の山廃純米だ。これでNo12、No15とK-77の三種が製品化された事になる。
飛良泉77の酒歴がアル分17度、酒度+3、酸度3.5である。ここでデータから酒質を推測して見よう。山廃純米造りだから酸に特徴が在る。一般的には味に幅を持たせる厚みのある酸だ。純米だからより出やすい。アル分17は多分無加水か原酒タイプと読む。加水を前提なら普通の純米造りましてや山廃ならもっとアル分が出る。でもって加水するなら15~16台へ持ってくるのが経済的だ。それを17度という吟醸なら原酒クラスのアル分と言う事は原酒かそのタイプと推測する。酒度+3は純米造りで+へ持って来れるのは醗酵能が旺盛と見ていいだろう。砕けて言えば乱暴に醗酵させたか綿密に様子を見ながらぎりぎり責めた(腕が良い)かだ。問題は酸度3.5だな。常識的には行き過ぎだ。ただ、日本酒の場合、乳酸・コハク酸・リンゴ酸で酸のおよそ8割を占める。赤ワインなんぞでは乳酸を利用してリンゴ酸を除去する技法が有ったりするくらいでリンゴ酸は紅玉林檎から連想される爽快な酸ではあるが強烈でもある。コハク酸は貝類の旨み成分だね。と見て来るとシャープで切れ良い酸を連想する半面、お口がすぼまってしまう様な「酸っぱい」のかな。と、まぁ酒歴からはこんな連想が出来る。この様に日本酒の裏張り(主に酒歴書だが)は『四畳半襖の裏張り』程ではないが使える。
そこで酒屋のオヤジに訊こう「この酒って酸っぱくないかい」で何と言うかだね。おいらなら「紅玉林檎をかじった時う――っ酸っぱいとなりしばらく慣れて来ると爽快感になる(SMか?)あんな感じです。ただ、酸度が高くても全体とのバランスですから77の場合は確かに酸は感じますが白ワインほどじゃあありません」と答える。実はこの酒5月に発売された。同時に呑んでいるのだが当時は、「面白い酸だ」「数値からは想像できない味だ」とかの印象で正直言うと、「物好きの珍しさ先行」的説明しかできなかった。ただ、従来のリンゴ酸多産酵母を使った酒と違い『酸が浮かない』点が気に入っていた。
7月に入ってもう一度試した。重苦しい酸では無く透明な酸だ。しかも、酒になじんできている。他に2種、都合3種で実験(という名目で晩酌な)しているのだが、無意識に77を選んでお代りして居る。ちょろりと水を加えて燗付けでもいける。
酸の高い酒を「個性的」とか言って囃したてる風潮が有るが、おいら的には「乱暴な酒」だ。
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若くて体力が有ればお付き合い可能だろうが、おいらみたく爺になり、加えて身障者になると「個性的」でも整ったそれで無いとちと厳しい。まして普通の消費者なら尚更だろう。飛良泉山廃純米77は個性的だがバランスの取れた酒に整って来た。

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by sasatatsu | 2010-07-08 20:14 | 酒の味 | Comments(0)